貝原益軒「楽訓」

「楽訓」は貝原益軒の著作です。その中から抄録したものを『楠葉だより もののあはれと求道精神』(木南卓一著 平成14年刊)

から孫引きにして次に紹介します。

 〇四時にしたがひ、月花をもてあそび、をりをりの景物をめで、其のをりふしにかなひたる唐(から)・大和のふるき
  歌を誦して、心に楽まんこそ、みづから作る労もなく、たやすくしていと面白きわざなるべけれ。

〇朝(あした)ゆふべ目の前にみちたる天地の大なるしわざ、月日の明らけき光、四時のめぐりゆく序にしたがへる、
 折々の景気のうるはしきありさま、雲煙のたなびける、朝夕の変態、山のたたずまひ川のながれ、
 風のそよぎ雨露のうるほひ、雪のきよき花のよそほひ、芳草のさかえ嘉木のしげれる、鳥獣虫魚のしわざまで、
 すべて万物の生意のやまざる、是をもてあそべば窮りなき楽しみなり。是に対すれば其の心を開き其の情を
 清くし、道心を感じ興し、鄙吝あらひ尽すべし。是を天機に即発すと云ふ。即発とは、外物にふれて善心をお
 こすをいへり。是れ外物の養をかりて内の楽をたすくるなり。

〇衆人の楽はみな外欲にあり。是をほしいままにすれば却って我が身のわざはひも是より起こる。
 君子は学んで道を楽しみ、命にやすんじて貧を憂へず、閑を得ては書をよみ、時節を感じ、風景を
 玩び月花をめで、詩歌を吟じ草木を愛する。この数多の事かはるがはる楽まば朝夕の楽きはまり
 なかるべし。・・・かかる時楽しまずんば日月ゆきてとどまらず、惜しむべし。

先日紹介した池田草庵先生の青谿書院記には「春はすなはち其の新緑を愛し、夏はすなはち其の
涼風を迎え秋は紅葉爛漫・・・」という名文も思い出されます。

白雲よ 月よ桜よ見るままに 万代(よろづよ)尽きぬをのが春秋

草も木も げに御佛の心とて 世々にたがはぬ をのが春明

こうした慈雲尊者の和歌などを口ずさむのも春を味わうにはいいものですね。